オンラインサロン「魔女のサバト」を主宰する、トイアンナさん、金澤悦子さん、川崎貴子さん「結婚しなくても幸せになれる時代」の恋愛や結婚について考える当連載。
第1回目はゲストとして独身研究家の荒川和久(あらかわ・かずひさ)さんが登場。結婚したくてもできない「不本意未婚」にスポットを当てて、トイアンナさんと対談していただきました。全3回。
“不本意未婚”が増えている理由
トイアンナさん(以下、トイアンナ):初めまして、今日はよろしくお願いします。
荒川和久さん(以下、荒川):実は、初めましてじゃないんですよ。コロナ禍前だったと思うんですけど、僕、トイアンナさんが登壇された就活生向けのイベントに行ったことがあって。
トイアンナ:まさかの! 確かに、イベントに登壇させていただいたことがあります。荒川さんは「婚活界隈で名前を知らない人はいない」というすごい方なので、本当にまぶしい気持ちで拝見してます。
この連載の第1回ゲストとして荒川さんをお招きしたのは、もちろん価値観が多様化していて、必ずしも結婚しなければいけないわけではないし、選択的非婚者の方の意思や生き方も尊重されるべきだと思うのですが、「結婚したいのにできない若者が4割~「不本意未婚」増大した若者を取り巻く環境」という記事を拝読して、34歳以下の若者の4割が不本意未婚に追いやられているという事実に衝撃を受けました。
そこでまず、「不本意未婚がなぜ増えているのか?」ということを、初心者向けに解説していただけますか?
荒川:まず前提として、「結婚したいと思っている人が最近減っている」とメディアが報じたり、データを出している記事があったりするじゃないですか。でも、実際は減ってないんですよ。そもそも、出発点を間違えてることが問題なんです。
トイアンナ:どういうことでしょうか?
荒川:『出生動向基本調査』によると、1980年代から、結婚したい人は男女で半分しかいない。「結婚はしたい人がするもの」という先入観がありますが、実際「結婚するつもりはなかったけど、いつの間にか結婚してた」という人が半分なんです。
では、なぜ皆婚時代が生まれたかというと、「結婚したい人が結婚できた時代」ではなくて、「結婚するつもりがなくても結婚していった時代」だったからです。
トイアンナ:上司や親がなんとかしようとしたり、なんだかんだ押し付けられて結婚してましたよね。
荒川:そうなんですよ。僕は、「お膳立て婚」と「自立婚」という分け方をしていて、国の基幹統計では、見合い結婚と恋愛結婚という分け方なんですが、恋愛結婚の中には、職場結婚も含まれています。でも、職場結婚って当時はお見合いの代替機能だったんですよね。
トイアンナ:仲人を上司がやっているだけですもんね。
荒川:1980年代まで、おせっかいな上司や世話焼きおばさん的なノリがすごかったですから。
トイアンナ:確かに。昔のドラマを見てもそういう描写がしょっちゅうでてきますね。「なんでまだ彼氏いないの?」「そろそろいい人紹介しようか?」「そういえば取引先の○○さんが……」みたいな感じで、結婚までトントンと進められていましたよね。
荒川:これは本当に善意なんですよ。「本当にこの人のことを思って」という部分もあったし。あと、昭和の上司は、部下の媒酌人をすることが誉れでもあったので。「何人結婚させたか」ということが誇りだったから、一生懸命ですよね。
トイアンナ:終身雇用制と関係していた部分もありますよね。「自社の中で結婚してもらって、住宅を買ってもらって、子供を産んでもらえれば、会社を辞めないだろう」という見立てもできますし。
荒川:そうですね。当時は、「腰掛けOL」とか「寿退社」という言葉があったように、企業が社内結婚を推奨してましたから。そういう「お膳立て婚」があったので、1980年代までは95%の男女が結婚できたんです。
そして、そこには、不本意未婚は存在しえなかった。つまり、環境の問題なんです。決して、若い人の意識の問題とか、価値観の問題でもなくて、「環境の問題である」ということが、まず大前提としてあると思います。
トイアンナ:お膳立て婚が減ったということですね。
「結婚すれば幸せになれる!」の意識が強すぎる?
荒川:結婚する人が一番多かったのが1972年で、年間110万組が結婚しました。それが、2015年になるとそこから46万組減少し、ほぼ半減しています。この46万組減少分というのは、お見合い婚と職場結婚が減った分と完全に一致するんです。言い方を変えると、自力婚できる恋愛強者の結婚は減ってない。
トイアンナ:昔も今も、恋愛強者は勝手に結婚していると。そして、誰かに「結婚しなさい」と言われてきた人が、結婚しなくなったということですね。
荒川:僕は、「恋愛強者3割の法則」って言ってるんですけど。パレートの法則と同じで、結局のところ、できる人は2~3割しかいない。残りの7~8割は恋愛に限らず何をするにも受け身なんです。
ただ、恋愛強者の結婚は減っていませんが、不本意未婚が増えているのは間違いありません。1990年代初頭までは、「結婚したい」と思っている男女のほぼ100%が結婚できたにも関わらず、今は、「結婚したい」と思っている20歳~34歳までの男女の6割弱しか結婚できない。「結婚したい」と思っているのに、その4割の人は結婚できないんですね。
トイアンナ:アプローチに対して受け身な人たちが、結婚できていないという話ですよね。結婚したい人は半数なので、約4人に1人が不本意未婚ということになりますね。
でも、今の時代は、結婚してどんどん友達が減って孤独になるということもないですし、大人の趣味もすごく広がっています。それに、パートナーが無職で養わなきゃいけない状況よりは、「一人で貯蓄したほうが老後は安心だ」と考える人も多いと思うんです。この状況下で、「本当は結婚したい」というモチベーションが湧くのはなぜでしょうか?
荒川:こんな時代ですし、未婚も増えて、一人でも楽しいという人はいるんですよ。でも、それは今に始まったことじゃなくて、昔から一定数います。「僕だけじゃない」「私だけじゃない」ということが可視化されているのは事実なんですが……。ただ、結婚したいのにできない人たちというのは、「結婚には幸せがあるんじゃないか」という意識が強すぎる人たちなんです。
トイアンナ:「結婚には幸せがあるんじゃないか」という意識が強すぎるというのは?
荒川:結婚に限らずなんですけど、「いい学校に行けば幸せになれるはず」「いい会社に行けば幸せになれるはず」「いい結婚相手と結ばれれば幸せになれるはず」というのは、“状態依存の幸せ”の考え方なんですよ。「○○の状態に身を置きさえすれば幸せなはず」という考え方は、受け身の状態です。こういう意識の人が結構多いんですよね。
例えば、「いい学校に入りました」「いい会社に就職しました」「次は結婚だ」というときに、結婚だけなかなか手に入らないと、ものすごく焦っちゃう。だから、そういう状態になると、「結婚しなきゃ!」って空回りしている人が多いんじゃないかなと思うんですよね。
トイアンナ:「結婚したことはないけど、どうやら幸せになれるらしい」「親も幸せそうだし、そんな結婚がしたい」という人が、「どうして手に入らないんだろう?」って。
荒川:そういう人もいますし、反対の人もいます。「親が仲悪いから結婚したい」という人もいるんですよ。
トイアンナ:親みたいな結婚じゃなく、「私はリセットして幸せな家庭をつくりたい!」みたいな?
荒川:そうですね。「親みたいな目に遭いたくないから、私は幸せな結婚をする」という。ただ、どちらにしろ、不本意未婚の人のほうが、「結婚すれば幸せになれる」という幻想を抱いている人が多いと思います。
結婚は「1回も行ったことがないハワイ」
トイアンナ:私も結婚を3回もしておいて何なんですけど……。「結婚=幸せ」って、昭和っぽい価値観だなという印象があります。その幻想の根源はなんでしょうか?
荒川:何回も結婚を繰り返した人は現実を知るわけですけど、1回も結婚したことがない人は分からないわけです。例えば、1回もハワイ旅行に行ったことがない人は、ハワイに夢を見るじゃないですか。でも、何回もハワイに行ってる人は、「ハワイはこんなもの」って思える。その違いは大きな差だと思いますね。
トイアンナ:結婚というのは、 1回も行ったことがないハワイなんですね。私もハワイに行ったことがないので、めちゃくちゃ分かります(笑)。確かに、ハワイに幻想を抱いてますね。
荒川:「幻想を持つな」と言われても、持っちゃうものは仕方ないのでいいんですけど……。ただ、幻想だけに支配されちゃってると、「幸せにならなければならない」ということに縛られ過ぎて、婚活地獄に陥ってしまうんです。すごい相手を見つけようと思って、結婚の条件も厳しくなるし。むしろ悪循環になります。
トイアンナ:おそらく、「結婚をしたい」じゃないんでしょうね。「幸せな結婚をしなければならない」なんですよね。その幸せの定義は、世間一般の人が「幸せそう~!」って言いそうな幸せですよね?
荒川:周囲に承認されるようなものが、幸せだと思ってるんですよ。
トイアンナ:そうなると、相手に望むスペックが、社会的に地位の高いスペックになってきますね。「年収600万円以上で、身長は170cm以上」みたいな。
荒川:そうですね。だから、最初にお話ししたように、結婚相手も学校や会社と同じなんです。学校で言えば偏差値だったり、会社で言えば給料の額だったり、有名な会社だったりするじゃないですか。それと同じように、結婚相手を偏差値で決めているようなものですよね。
離婚率が世界一だった江戸時代
トイアンナ:以前、荒川さんの「夫年上婚が減っている」という記事を拝読しました。これは、男性側の取引として、「結婚相手は20代がいい」ということが無謀になりつつあるわけですよね。
荒川:女性が言う相手の年収、男性が言う相手の年齢というのは、もう完全にトレードオフになっています。男女ともに、“高嶺の花”は手に入らない時代になっているんですね。
だから今、メディアによっては、「同じような年齢で、同じような年収の人たちで結婚する同類婚が増えている」という誤解を招く言い方をしてるんですけど……。実は、増えてはいないんです。昔から、ずっと同じなんです。結婚した人の全体数が減ってるから、比率が上がっているだけであって、増えてはいません。
トイアンナ:同類婚以外が、死に絶えたということですね。
荒川:もっと言えば、年上の夫をアテンドしていた職場環境がなくなったために、年の差婚がなくなっただけです。つまり、恋愛弱者のうち7割の男性は、お膳立てがなければ結婚すらできないという話なんです。
トイアンナ:お膳立てされる社会が、当たり前のように長いこと機能していましたからね。
荒川:まあ、せいぜい100年間ぐらいですけど……。
トイアンナ:そうなんですか? 江戸時代は違ったんですか?
荒川:全然違いますよ。江戸時代は、もっといい加減です。離婚率が世界一でしたから。
トイアンナ:「三行半(みくだりはん)」がめちゃくちゃありましたもんね。
荒川:三行半は、離縁状でもあり、再婚許可証でもあった。江戸時代の庶民の結婚は、今で言う恋愛とあまり変わらないと思うんですよ。くっつき合いなんです。だから、「結婚する」と言っても、「お付き合いましょうか」「同棲しましょうか」ぐらいのレベルだったと思います。土佐藩が、「7回離婚してはならない」という禁止令を出すぐらいだから。つまり、6回まではいいんですよ。
トイアンナ:確かに。現代において「元彼が6人います」って言われたら、そんなもんかってなりますね。
荒川:それぐらい割と自由だったんです。離婚するときも、「子供は俺が引き取るわ」とか、「子供の半分はお前が引き取ってくれ」みたいに、すごくカジュアルだったと思います。
トイアンナ:「太郎と次郎は私がもらうから、三郎と四郎はよろしく」みたいな。
荒川:そうそう(笑)。不都合な真実ですけど、もっと言えば、本当にその夫婦の子供かどうかも分かったもんじゃないですからね。