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書かないと伝わらないし、言われなければわからない 恋愛における対話術

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こんにちは。ライターになって10年目を迎える、トイアンナです。自分の書いた文章が拡散されると、たまにとんでもない誤読をしてくる人がいます。

私が書いてもいない内容へキレてる人を見ると「お前の国語力はゼロか?」とピキピキくることもあります。しかし、悪文を除くと、文章でのすれ違いは以下の2パターンでしか起こりません。

1. 書き手が書いてもいないことを、読み手が「察して」起きる誤解
2.書き手が「これくらい察するだろう」と期待したのに、読み手が文字通り読んだために起きる誤解

分かりやすい例を挙げましょう。私はイギリスのことをバカにする文章を書いたとします。
たとえば「イギリスって本当にご飯がマズイ」みたいな文章です。

私はイギリスに6年住んでいました。また、親族にイギリス人もいます。
こういう背景から、私はディスに対して

君の言うとおりだ。イギリスの飯はまるで石畳のようにマズい。
ところで日本の道路はまだ舗装すらされていないんだって?
だからトヨタ車はオフロードでも頑丈なわけだ。


など、ウィットに富んだ嫌味の応酬を期待します。

ところが、「イギリスの飯がまずい? 最近のイギリスのご飯はEU時代からの移民が料理店を営んでいるから改善してて……」とマジレスする人がいます。

ダセえな。そんな議論をしたいわけないだろ。
「どういう目的のコミュニケーションかを察しろよ」と、こちらは期待してしまう。
しかし、そんなものを日本人に期待するほうがおかしいわけです。

「察してほしい期待値がすれ違うと、ささいな会話も喧嘩になる」なんて事例が、SNSではよく見られますね。
さて、これは恋をする方々にも、よく起きるトラブルです。

目次

「察してほしい」が伝わらない恋愛のコミュニケーション

たとえば、こんな例がありました。

同棲しているカップル。皿洗いの担当は彼です。
しかし、彼女は「汚れた食器がシンクに一晩以上置かれていて、気づいたタイミングで洗う」やり方を、
不潔だと思っています。どうにかして改めてほしい。
そこで、彼女が送ったLINEがこちら。

いつもシンクが汚すぎてありえないんだけど。
もうさ、使い捨てのお皿でよくない?

それもいいじゃん。と、彼は思いました。
そこで、スーパーにあったペーパー皿を買って帰ったら彼女がブチ切れた。
「なんであの文章でそう思ったわけ? 国語力ないの?」
あまりの返しに彼も激怒し、同居するマンションでは一時冷戦が勃発しました。

彼女は「もう使い捨ての皿で良くない?」で怒りを表明していました。
でも、彼にはそれが伝わらなかった。
いつもシンクが汚い(と、彼女は感じている)から、
新たな解決策として洗う皿をなくそうと提案されたように感じたわけです。

基本的に会話はローコンテクストに合わせたほうがうまくいく

カップルに限らず、会話はより直接的に話すほうに合わせましょう。
「察してほしい側」が話し方を直接的にするとうまくいきます
逆は無理です。

京ことばのような、「察して」を究極まで高めた言語をハイコンテクスト言語と言います。
ハイコンテクスト言語を話すには、みんなが似たり寄ったりな文化で育たねばなりません。
そして、誰もが京都で育つわけではないのと同じように、彼もあなたと同じ人生を歩むことはできません。

ウィットに富んだやりとりは、楽しいっちゃ楽しいのですが、
「伝わりやすさ」という観点では絶望的です。
もし、人生で誰かに「それじゃ遠回しすぎてわかんないよ」と言われたことがあるなら、自分は内輪での楽しいやりとりを優先し、伝わりにくいコミュニケーションをしていたのだと反省すべきです。

特に、日本ではコミュニケーションの急激なローコンテスト化が進んでいます。
「察してほしい」やりとりを、捨てつつあるのです。
たとえば『鬼滅の刃』はよく、昔の漫画と比べて「全部ナレーションで説明する」と指摘されています。

出典:吾峠呼世晴『鬼滅の刃』1巻 集英社

このシーンでは「自分の妹が鬼になってしまったことに戸惑う主人公」を描いています。
と、説明されなくてもわかるくらいに主人公が全部語る。モノローグがたっぷり入る。
だから誰も誤解しません。

これが、ハイコンテクストな漫画を楽しんできた世代には苦痛となるケースもあるようです。
「ここまで言われなくてもわかるよ、くどいよ、それくらい読者もわかれよ」となるわけです。

しかし、そうではないのです。
われわれは、すべてを言葉にしないとわからないのです。
映画をあまり観てこなかった方が、セピア色の画面で「これは過去の回想シーンだ」と気づけないように。
演出のお約束というのは、同じ文化を共有したハイコンテクストな仲間でしかわからない。

育ってきた環境が完全に同じ人なんて、いない

恋愛でも同じです。
全く同じ小中高で、同じ職種で同じ会社に就職して。
趣味も全部同じ人がいたら、まあまあハイコンテクストな話題も通じるかもしれません。

しかし、実際にはそういう方はほとんどいない。
実家でタオルを洗う頻度も、「キレイな部屋」の定義も、全部違うところからやってきた人間と付き合うのです。
察しろなんて無理。
逆に、こっちも相手の意図を察したつもりで、トンチンカンな誤解をしているかもしれない。

それくらいの前提で、直接的なコミュニケーションを選んだ方がいいのです。

たとえば、さっきの彼女の不満なら、

いつも朝のシンクが汚いと感じちゃって、私は嫌だな。
夜ごはんで使ったお皿は夜のうちに洗ってほしいんだけど、それって厳しい?

と、聞けばよかったのです。これなら誤解のしようもありません。

不満の伝え方を事例にしましたが、付き合う前の相手にだって、やることは同じ。
好意もまた、結構ダイレクトに言わないと伝わらないものです。

〇〇さんとのこの前のご飯、楽しかったです。
よかったらまた誘ってください。

これだと、女性は好意を伝えたいのか、それとも社交辞令を送っているのかわかりません。
取引先との会食後ですら、こういうメールを送りますし。
代わりに、こういいましょう。

〇〇さんとのご飯、すごく楽しかったです。
時間が過ぎるのもあっという間でした。
よかったら来週、〇〇へ行きませんか? またデートしたいです。

「ダイレクトすぎん?」と目をひん剥いた人もいると思うのですが、
『鬼滅の刃』と一緒で、全部モノローグで書いてあげないと分からないんです。

逆に一度騙されたと思って、小説投稿サイト『小説家になろう』の恋愛小説を読んでみてください。
われわれが妄想する物語では、男性の発言がダイレクトすぎることに気づくはずです。

「エミリアには俺がいればいいだろう?」 by 悪役令嬢は氷の貴公子の秘密の婚約者

「とても綺麗だ。綺麗すぎて、他の男に見せたくないくらいだ」by 魔術師になりますので、あとのことはどうかお気になさらず

「愛している。何があっても、それだけは疑わないで欲しい」by 行き遅れ令嬢の恋~夜会で助けてくれたのは不愛想な騎士でした

これらはすべて、人気ランキングに入ったヒット作品の男性キャラの発言です。
だ、だだだダイレクトじゃん。日本語がハイコンテクストな言語ですって? きっと嘘ですよ。
これくらい直接言われないと、相手もわからないし幸せを感じられないんですよ。

ダイレクトに好意を伝えるのも、改善してほしいことを伝えるのも勇気がいるものです。
しかし、相手の対話から逃げるために、「察して言葉」を使うんじゃ結ばれるものも結ばれません。
相手に向き合うためにも、思ったことをそのまま言葉にしてください。

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この記事を書いた人

1987年生まれ。慶應義塾大学卒業後、外資メーカーで勤務してのち、独立。 婚活予備校「魔女のサバト」主催者のひとり。書籍『モテたいわけではないのだが ガツガツしない男子のための恋愛入門(イースト・プレス)』『やっぱり結婚しなきゃ! と思ったら読む本: 35歳からのナチュ婚のすすめ』(河出書房)など多数。

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